短頭種気道症候群 Part 1
「短頭種気道症候群」
フレブルやパグ、ブルドッグなどの短頭犬種において「ガーガー」、「ブーブー」などの異常呼吸音やいびき、睡眠呼吸障害、睡眠時無呼吸、呼吸困難、運動不耐性などを認める疾患で、犬の呼吸器診療では非常に多く遭遇します。
今回は短頭種にはどの犬種が含まれるのか、ということについて述べたいと思います。
フレブルやパグなどは間違いなく短頭種と言えますが、獣医師によってはチワワやポメラニアンなども短頭種とする場合があり、困難を招くことがあります。
結論から述べますと、実は短頭種の定義はまだ正確には定まっていません。
短頭種と言えば、鼻が短く、寸胴な体型をしているイメージがあるかと思いますが、いくつかの研究グループが頭の骨の長さや、頭蓋骨の角度から短頭種を定義する測定法を提唱していますが、現在のところどの測定法もコンセンサスは得られていないのが現状のようです1。
短頭種を定義するための測定法をいくつかご紹介します。
・頭蓋骨の幅(skull width)と長さ(skull length)の比率が0.81以上で、短くて広い顔の頭蓋骨(short and broad facial skull)を短頭種とする2。
・頭側の頭蓋骨(cranial length)の長さと頭蓋骨自体の長さ(skull length)の比率が1.60〜3.44であれば短頭種とする3。
・頭蓋骨の角度から、短頭種は9〜14°、中頭種は19〜21°、長頭種は25〜26°と定義する4。
Meola SDBrachycephalic airway syndrome. Top Companion Anim Med, 28, 91-96, 2013. (Figure 1)より
ある測定法ではパグ、フレンチブルドッグ、ブルドッグ、ボストンテリア、ペキニーズ、マルチーズ、シーズー、ボクサー、キャバリエキングチャールズスパニエル、ヨークシャーテリア、ミニチュアピンシャー、チワワなどが短頭種に含まれるとされています。
※日本においては、狆は間違いなく短頭種として分類できると思います。
しかし、鼻の長いチワワもいれば、鼻の短いチワワもいるように、犬種のみで分類することは難しいように感じています。
最近の文献の傾向から、フレンチ・ブルドッグ、パグ、イングリッシュ・ブルドッグ、ペキニーズ、ボストンテリア、狆は短頭種として間違いないと考えています。
チワワやシーズー、マルチーズ、ヨークシャテリアなどは明確に短頭種とは言えないように思います。
最も重要なことは、呼吸器症状を認めた場合の治療法を検討する上で、フレブルとチワワでは症状が似ていても治療法が大きく異なる場合があることです。
短頭種気道症候群であれば軟口蓋切除などの外科手術という治療法がよく知られていますが、
フレブルやチワワを一色単に短頭種気道症候群と定義してしまい、正確に病態を把握せずに誤った治療を実施してしまうことで、症状が改善しない、むしろ悪化してしまう症例の相談を受けることが多くあります。
あくまで犬種の定義ですので、そこまで厳密にこの犬は短頭種だと定義する必要はないと考えています。
重要なことは、犬種にとらわれずに、症例ごとに病態を正確に把握し、症例ごとに治療を検討するということです。
参考文献
- Meola SD Brachycephalic airway syndrome. Top Companion Anim Med, 28, 91-96, 2013.
- Evans HE: Miller’s Anatomy of the Dog, ed 3. Philadelphia, WB Saunders, 1993.
- Brehm H, Loeffler K, Komeyli H: Schädelformen beim Hund. Zbl Vet Med C Anat Histol Embryol 14:324–331, 1985.
- Regodon S, Vivo JM, Franco A, et al: Craniofacial angle in dolicho-, meso- and brachycephalic dogs: Radiological determi- nation and application. Anat Anz 175(4):361–363, 1993.