犬の気管虚脱治療について
(気管外プロテーゼ法)
犬の気管虚脱とは気管が扁平化してしまい、「ガーガー」というようなガチョウの鳴き声様の呼吸音や呼吸困難、咳などを生じる疾患です。
原因については遺伝性、栄養性、神経性、炎症性などが考えられていますが、いまだに不明とされています1。
ヨークシャーテリアやポメラニアン、チワワ、トイプードルなどの小型犬で後発しますが、柴犬などでも発症することがあります1。
グレード分類
気管虚脱はグレードがⅠ~Ⅳの4段階に分類されており2、
軽度であれば興奮時の咳が、グレードⅢやⅣでは興奮時や散歩時などの運動時に呼吸困難、異常呼吸音、チアノーゼなどが認められるようになります。
診断
診断はレントゲン検査、透視検査で気管の扁平化を確認します。
グレードの正確な評価には気管支鏡検査が最も優れています。
治療
初期であれば体重管理や気管支炎治療などの温存療法を実施しますが、重度の咳や呼吸困難が生じる場合には積極的な治療を検討しなければいけません。
現在の積極的な治療には「気管外プロテーゼ法」と「気管内ステント留置術」の2つの選択肢があります。
気管外プロテーゼ法は、光ファイバーで造型したリングを気管周囲に設置することで、気管を外側から引き上げることで内腔を拡げる手術です3。
気管内ステント留置術とは気管の中に自己拡張性のあるメッシュ状の金属を挿入し、内側から気管を拡げる治療です4。
現時点ではどちらがより優れている治療法であるという結論はでておらず、それぞれメリット・デメリットを理解したうえで治療法を検討します。
当院ではどちらの治療にも対応しております。
犬種、年齢、性格、生活環境、併発疾患などを考慮して治療法を決定します。
気管外プロテーゼ法を実施した症例の術前・術後のレントゲン画像です。
手術前:散歩時や興奮時などに咳とガーガーいう呼吸音が認められました。
手術直前の気管支鏡検査では気管の扁平化が認められました。
実際の手術中の肉眼所見ではかなり扁平化していました。
プロテーゼを装着すると気管が拡張していきます。
手術後
虚脱した気管が拡張し、正常な径になっています。手術直後より異常な呼吸音、咳は消失しました。
気管虚脱にはいくつかタイプがあり、すべての気管虚脱に手術やステント留置が必要なわけではありません。
まずは診断が重要です。
気管虚脱でお悩みの方は一度ご相談ください。
参考文献
- King Lesley G. Textbook of respiratory disease in dogs and cats. Mason RA, Johnson LR, editors: Saunders, an imprint of Elsevier; 2004. xxi, 665 p. p.
- Tangner c. H., Hobson h. Phil. A Retrospective Study of 20 Surgically Managed Cases of Collapsed Trachea. Veterinary Surgery. 1982;11(4):146-9.
- Suematsu M., Suematsu H., Minamoto T., Machida N., Hirao D., Fujiki M. Long-term outcomes of 54 dogs with tracheal collapse treated with a continuous extraluminal tracheal prosthesis. Vet Surg. 2019;48(5):825-34.
- Sura P. A., Krahwinkel D. J. Self-expanding nitinol stents for the treatment of tracheal collapse in dogs: 12 cases (2001-2004). J Am Vet Med Assoc. 2008;232(2):228-36.